機関誌“マーチング”No.35に掲載された記事です。
田野町立田野中学校吹奏楽部 (奇跡の全国大会が残してこれたもの)
前顧問 斎藤 眞人

 2003年1月18日(土)、私たち田野中学校吹奏楽部は夢のまた夢だと思っていた日本武道館のステージで演技をしていました。あれから3ヶ月、何からどう振り返って良いのかわからないほどの大きな感動と、今までに気づかなかったたくさんのことを感じ取ることができ、未だに当時の興奮がつい昨日のように思い起こされ、どうしようもなく切ない気持ちになってしまいます。
 決して実力的に高いチームではありませんでした。いろいろな巡りの悪さもあり、前年度に大活躍をしたチームと比較をすると、全ての面で大きく劣ったスタートになったことは否めません。しかしただ一つだけ勝っていた点があるとするならば、それは「想い」であったと思います。仲間への「想い」、支えてくださるすべての環境への「想い」、自分たちの演奏演技への「想い」、そして何よりも二度と戻ってくることのない今というかけがえのない一瞬への「想い」・・・いやむしろ「想い」というよりも、そのように愚直に感じ取れる「感性」が傑出していたのではないでしょうか。
 月並みな言い方ですが、自分たちだけの力でなしえた快挙ではありません。まずはそのことを痛感することができました。日頃から「感謝すること」の大切さには自分も部員たちもしっかりと向き合ってきたつもりでしたが、甘かったと反省しています。諸先輩達が、長年かけて宮崎県のマーチングレベルを少しずつ向上させて見えられた、その恩恵に巡りの良い私たちがあずかることができたと、謙虚にとらえています。
 マリンメッセ福岡での九州予選の前日、全部員で劇団四季の「ライオンキング」を観劇に行きました。翌日に「魅せる」立場である部員達がそのことを忘れ、純粋に「魅る」ことの素晴らしさを体感し感激の涙を流していました。それまでの大会で全然力を発揮することができず、口惜しい思いを繰り返し味わってきた部員たちですが、この夜のおかげでよけいな力が抜け、翌日は自然体で会心の演技を披露することができました。常にこのように肩の力を抜くことでうまく物事が回るとは言えませんが、明らかに今回の大きなポイントにライオンキングがあることは間違いありません。 
 「日本武道館」は素晴らしいところでした。私も含め、部員たちも自分たちが成し遂げたことの大きさをよく実感できてないのですが、最近になってようやく当時指揮台から見た光景や耳に残る歓声が冷静に思い起こされてくるような感じがしています。演技中体の奥底から次々にわき上がってきた圧倒的な充実感と高揚した気持ちは、ひょっとしたら今後の人生 で二度と味わうことがないほどの経験だったのかもしれません。漬け物と大根の町、田野町の誇る大根役者達は、宮崎県の代表として精一杯の演技と、恥ずかしくない団体行動を発揮することができたという点だけは、胸を張って報告することができます。結果は銅賞でした。全国レベルでは全然通用しないと言うことを痛感し、今後に生かさなくてはならないと思いを新たにしています。感動はしました。しかし感動して終わるだけでは財産になりません。自分で蓄えた財産をどのように周囲のために切り分けていくか、田野中と自分の役割はこれからだと思っています。
 田野中学校が全国大会に出場できたのは奇跡です。しかし奇跡は偶然起こるものではないと確信しています。周囲の方々の想いが結集しました。その想いに必死で答えようと誠実に練習に向き合った部員たちの想いがありました。そういった目に見えない力が、今回の奇跡を自力で起こしたのだと思います。なぜ我々が武道館に出場することができたのか?一番明快な答えは「予選に出場したから」ではないでしょうか。やらずに平穏であるより、たとえ失敗に終わったとしても行動的でありたいと思っています。何よりもその姿勢の大切さを痛感したことこそが、今回の一番の収穫なのかもしれません。宝くじは買った人にしかあたらない、夢は持っている人にしかかなわない・・・
 最後になりましたが、久保田宏之先生、真理先生をはじめとする、私たちを支えていただいたすべての方々に、心から感謝申し上げます。そして大会運営に携わるすべての役員・スタッフの方々の献身的なご尽力に対し、感謝の言葉も見あたりません。皆さんのおかげで、私たちは日本武道館のステージで精一杯躍動し一生を照らす貴重な何かをつかむことができました。千鳥ヶ淵から仰ぎ見た屋根の上に光る大きな玉ネギ、一生忘れません。あの素晴らしい想い出を胸に、次の感動を目指して今と向き合っていきたいと思います。皆様本当にありがとうございました。そして今後の大会のますますの発展と成功を祈念しております。若い可能性が一生を充実させることができるのかどうか、マーチングにしかできない素晴らしい教育の使命に、誇りを持って取り組んでいく所存です。

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